文化活動について 

❁「なごや凸盛り隊」(2013~2017年)


名古屋周辺で主に輸出用陶磁器の加飾技術として発達した「名古屋絵付け」伝統的職人技の創造的伝承活動を行っています。

「名古屋絵付け」伝統的職人技の伝承に関連する活動の多くは、文化的側面からボランティア的活動としてのご依頼が多いため、協働する関係者やそのご依頼内容によって、「なごや凸盛り隊」(主に名古屋文化遺産活用実行委員会の文化事業関連(事務局:一般財団法人名古屋陶磁器会館、2013年~2017年までの活動が中心)、またこれまでの団体の中での役割分担を引き継ぐかたちで、「名古屋絵付け職人技を残し伝える会」として、このホームページ上では活動を発信、記録しています。

 

現在、「なごや凸盛り隊」という活動名は、一般財団法人名古屋陶磁器会館主催の「凸盛り」に特化した講座「名古屋絵付け教室」や、同館を紹介する文化的イベントなどで活かしていただいております。しかしながら、「名古屋文化遺産活用実行委員会」主催の文化事業が終了したことなどから、団体としての協働がなくなりました。そこで、これまでの活動成果により繋がったご縁からお声掛けいただくことが多い、名古屋絵付け」職人技の伝承に関連する様々なご依頼にお応えするため、これまでの協働における役割を引き継ぎながら、「名古屋絵付け職人技を残し伝える会」として地道な活動を継続して行っております。

 

❁なごや凸盛り隊について

名古屋周辺で主に輸出用陶磁器の加飾技術として発達した「名古屋絵付け」伝統的職人技の中でも、とりわけ「イッチン」を使用して盛り上げる「凸盛り」装飾をを中心とした「技」を「のこしつたえる」ことを目的とした活動を行っています。

 

〈発足の経緯と活動について〉

 2013年7月、「名古屋文化遺産活用実行委員会」主催の陶磁器上絵付け職人技の伝承を目的とする文化事業(文化庁補助事業)を企画・サポート、また活動を発信する団体として、上記委員会関係者有志4名により結成されました。最初の活動は、名古屋周辺において最後の凸盛り職人と言われる高木はるゑ氏の「凸盛り」技法を記録することから始まりました。そして「凸盛り」技法を学ぶことを目的とした講座、「技の伝承塾(職人の技を伝える講座)」「技の創造塾」などのサポートを行いました。その後活動の幅は大きく広がり、多義にわたる活動成果を残すことができました。

 

上記活動の詳細は、『文化と産業が融合する産業観光モデル構築に関する研究(研究会報告書)』(名古屋学院大学 古池嘉和、令和2年3月)の中の1つの研究報告として、文化資源の活用を視野にいれたテーマ『「名古屋上記絵付け」伝統的職人技を「のこしつたえる」取組について』(杉山ひとみ)に記録されています【図5】。

『界隈創世』

発行主体 名古屋文化遺産活用実行委員会

 事務局 名古屋陶磁器会館 平成25年度

文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業

(文化庁)2012年3月発行【画像1】

凸盛り職人 高木はるゑ氏
「名古屋文化遺産活用実行委員会」主催

「技の伝承塾」「技の創造塾」講師【画像2】

 

『凸盛り~名古屋絵付けの伝統技法~』
平成25年度 文化庁文化芸術振興費補助金
(文化遺産を活かした地域活性化事業)
発行・企画・制作:名古屋文化遺産活用実行委員会
監修:なごや凸盛り隊
デザイン:有限会社北風寫眞館
【画像3】

『名古屋絵付け 伝統技法十三番』
発行者:名古屋文化遺産活用実行委員会
監修:一般財団法人 名古屋陶磁器会館
文化庁:平成28年度文化遺産を活かした地域活性化事業
発行日:2017年3月20日 【画像4】

ArteRosa としてのこれまでの取組について

〈名古屋絵付け伝統的職人技の創造的伝承活動の始まり.....そして現在〉

名古屋市「文化のみち」周辺の文化資源の掘り起こしにより、明治10年代頃から地場産業として誕生した「上絵付け」加工業に光が当てられるようになりました。その研究成果は、『界隈創世』として纏められています【図1】。そこで明らかになったことの一つは、時代の移り変わりと共に、地場産業を支えた絵付け職人の卓越した技が失われつつあるということです。

 

「イッチン」と呼ばれる真鍮製の金具を使用して描く盛り上げ装飾「凸盛り(デコモリ)」もそうした技の一つです。そこで2013年から、「名古屋文化遺産活用実行委員会」(事務局:名古屋陶磁器会館)メンバーが中心となり、「凸盛り」を中心とした職人技の伝承を目的とした文化事業が始まりました(文化庁文化芸術振興費補助金 文化遺産を活かした地域活性化事業)。

 

陶磁器上絵付け技能士として、この「名古屋絵付け」伝統技法の伝承活動に参加することになりました。参加のきっかけは、2011年頃、「凸盛り竜」の描法が大変珍しいため、「凸盛り」技法を学ぶためのセミナーの開催を検討いただくよう、名古屋陶磁器会館さんにお願いしたことでした。このお願いは、後に「名古屋文化遺産活用実行委員会」が行う上記上絵付けに関する文化事業に繋げていただけました。

 

文化事業の中で、絵付け技能士として提案した最初の取組は、名古屋周辺に残る最後の凸盛り職人、高木はるゑ氏が受け継ぐ「凸盛り竜」の技法を研究し、それを記録に残す、ということです。これまでの経験から、こうした職人技は「秘密」にされることが多く、後継者がいない場合は、人知れず失われてしまう恐れがあったからです。一度失われてしまった技法を後に復活させるためには、大変な労力がいります。もしかしたら再現できないかもしれません。こうした状況が検討され、「凸盛り」技法に関する冊子が作成されることになりました(『凸盛り~名古屋絵付けの伝統技法~』)【図3】。

 

冊子『凸盛り~名古屋絵付けの伝統技法~』作成の際は、『凸盛り技法』に関する技術面の監修をさせていただきました。その後、この冊子は「凸盛り竜」の描法を学ぶ次の講座のテキストとして活用されました。「名古屋文化遺産活用実行委員会」の文化事業として、高木はるゑ氏を講師として招き、「凸盛り竜」の描法を学ぶ講座、「技の伝承塾」(2013年、定員10名、上絵付け経験者が受講)が開催されました。高木氏がご高齢であり、寡黙でいらっしゃることから、「技の伝承塾」の進め方(骨子)について考え、技術面でのサポ―トの他に、講座の進行に携わらせていただきました。

また、伝統的技法を受け継ぐことを目的にした、新たな発想による「凸盛り」参考作品の制作、紹介を講座内で行いました。

 

「技の伝承塾」(2013年)から「技の創造塾」(2014年)へと継続された文化事業。

高木はるゑ氏が「技の伝承塾」の教材として準備された「凸盛り竜」の伝統的図柄には2つパターンがありました。一つは、ドラゴンのように「翼」があるモノ、もう一つは翼の部分にガラスの粒を施した「雲」が表現されているモノ。このガラスの粒を施す装飾は、職人言葉で「ガラス盛り」と呼ばれています。そこで、この大変珍しい技法に特化させた講座を、「技の伝承塾」の応用編という位置づけで開催することを提案いたしました。

 

「ガラス盛り」技法は、一度は失われた技法だと考えられていた「コラレン」技法の流れを汲む技法だと考えられます。そこで、コラレンについて書かれた唯一の文献、井谷善恵氏著『蘇る白瑠璃コラレンー幻のオールドノリタケ』(株式会社平凡社、平成19年)、またその中で紹介されている名古屋陶磁器会館収蔵のコレクション例を示した上で、文化事業としての継続を検討いただきました。こうした経緯を経て、「技の創造塾」が開催されました(2014年、定員10名、上絵付け経験者が受講)。

 

絵付け技能士としての技法研究では、次のことを行いました。①盛り絵具の調合の基本的配合に関する研究。②イッチン遣いの違いに着眼した技法、描法の研究。盛り絵具を作る基本は、台白(商品名、盛り上げ用に作られたパウダー状のモノ」、煮溶かしたフノリ、水です。それを乳鉢に入れ、乳棒で混ぜながら、最適なかたさ、やわらかさに調節します。均一な結果が得られるよう、その配合やコツについて探りました。

 

イッチン遣いの違いに着眼した技法、描法の研究では、高木氏のイッチン遣いを「点的」「線的」「面的」「鱗状」などに分け、現代美術的アプローチを参考に、デザイン的要素を加え、「凸盛り」参考作品の制作、紹介をする、というかたちで伝統技法を継承するという1つのアプローチを紹介いたしました。

また、「凸盛り竜」に、見出せる技法を大きくわけて、「二重盛り」、「ガラス盛り(コラレン)」とし、それぞれの技法の魅力を際立たせる参考作品の制作、紹介を継続的に行うことで、「凸盛り」を中心とした伝統的職人技の伝承活動をかたちとして示しました。

 

「凸盛り」の伝承活動の中では、大量生産されたこれまでの「凸盛り竜」の製作とは異なったアプローチでのモノづくり(制作)を考えました。なぜなら、高木氏の巧みな技から生みだされる「凸盛り竜」は分業制で仕上げられ、時には、手仕事の早さが出来の良し悪しよりも強く求められたように感じるモノがあるからです。今後を見据えた技の伝承では、「凸盛り竜」という伝統的モチーフを受け継ぐと共に、技法の魅力をさらに際立たせると同時に、新たなオリジナルデザインを提案することが重要だと考えました。

 

このように、伝統的「凸盛り竜」の描法を習得した上で、上記のような技法の魅力を際立たせる新たな「凸盛り」作品の制作、発表を通し、「名古屋絵付け」職人技の「凸盛り」の魅力を伝え、技を「のこしつたえる」活動に繋げる創造的な道筋を考えました。とりわけ、「ガラス盛り(コラレン)」を中心にした作品は、注目度が高く、技法への関心が非常に高いため、この技法を中心とした作品制作を行っています。

  

この「ガラス盛り(コラレン)」は、一度は失われた技法だと考えられていましたが、名古屋市文化のみち周辺の「文化遺産の掘り起し」がきっかけとなり、高木氏の「ガラス盛り」にたどり着き、こうした技法をを残し伝えることができるようになった、と言えます。

 

上記のような「凸盛り」技法の研究を踏まえ、2016年、名古屋絵付けの魅力を伝える「凸盛り若冲プロジェクト」(名古屋文化遺産活用実行委員会主催)【図4】に参加いたしました。ここで制作した「若冲」大皿は、これまでの様々な実験の成果を踏まえた、技法上の集大成と位置付けています。「凸盛り若冲プロジェクト」の他にも、新たなオリジナルデザインを中心としたモチーフによる「凸盛り」作品の制作、紹介を通し、「凸盛り」を中心とする「名古屋絵付け」職人技の創造的な伝承活動を行っております。

 

「名古屋文化遺産活用実行委員会」主催の文化事業は、事務局の運営状況が変わったことにより、2017年3月に終了しました。しかしながら、これまでの活動の中でご指導いただいた方々のご尽力、ご協力により、「名古屋絵付け」を「のこしつたえる」活動は、少しずつ広がっています。まずは、地場産業として発達した「名古屋絵付け」の魅力、白素地の産地、瀬戸や美濃などの「やきもの」の大切さを知っていただく努力をこれまで以上にすることが重要だと考えております。

 

こうした活動は、イタリア在住の友人たちからも関心を集めていることから、少しずつ、彼らにも「活動」を発信しています。モノを大切にすること、手仕事を大切にすること、それは「人」を大切にすることにも繋がるのではなのか、と思います。イタリア人の友人たちの言動から、そうしたことに改めて気づかされました。こうした想いで、今を考え、未来に向かって創造する活動を行っております。

 

こうした文化活動を続けること自体、大変難しいと感じておりますが、技法を伝授くださった高木はるゑ氏に感謝し、今後も創意工夫を重ね、地道な活動を続けられるよう努力する所存です。

お目通しいただきありがとうございました。

 

                  2019年 2月  杉山 ひとみ 

 

❁「名古屋絵付け職人技を残し伝える会」について

2017年3月、「名古屋文化遺産活用実行委員会」主催の名古屋絵付け職人技の伝承に関する文化事業が終了したことを受けて、その活動成果に基づく文化活動を、やきもの関係者様からの様々なお声掛けに応じるかたちで、「名古屋絵付け職人技を残し伝える会」(会員2名)として活動を続けております。

2021年5月、新たな活動拠点を以下に設けました。

 

〒509-5171 岐阜県土岐市泉北山町3丁目2番地

手わざ工房 匠の館11号室(Atelier ArteRosa内)

 

〈会員〉

アドバイザー

前名古屋文化遺産活用実行委員会会長    

市ノ木慶治研究会発起人

名古屋学院大学 現代社会学部教授 

古池 嘉和

 

〈会員〉

連絡窓口担当 

イタリア共和国・ロンバルディア州認定:

 Ceramista Decoratore Piccolo Fuoco

厚生労働省認定  1級陶磁器製造技能士・ものづくりマイスター

杉山 ひとみ   

                                             

〈活動紹介〉

「名古屋絵付け」とは、明治期以降、主に輸出用陶磁器の加飾技法として、名古屋を中心に発達した上絵付け技法のこと。その価値を再評価し、確かな形で後世に伝えて行くことが求められています。そのため、私たちは、手描きならではの伝統技法を学び、今に伝え、未来に向かって創造する活動を行っています。

 

〈関連活動事例〉

 

※只今、これまで行った活動の内容、記録を整理中です。作業を終え次第こちらに徐々に掲載させていただきます。

 

■2020年3月、文化と産業が融合する産業観光モデル構築に関する研究」の中の1つの研究報告として、2013年から2017年までを中心とした活動記録を記しました。

                           【画像5】

 

■2020年 あいち産業科学総合センター 産業技術センター 瀬戸窯業試験場

      による瀬戸焼を対象とした『上絵付けの伝統技法「凸盛り」』製品

      開発研究に協力

■2021年 あいち産業科学総合センター 産業技術センター 瀬戸窯業試験場

      による瀬戸焼を対象とした『上絵付けの伝統技法「凸盛り」』製品

      開発研究に参加

◆あいち産業科学総合センター 産業技術センター瀬戸窯業試験場による瀬戸焼を対象とした『上絵付けの伝統技法「凸盛り」』製品開発研究協力・参加について:

 瀬戸窯業試験場 製品開発室 主任研究員 長谷川恵子氏、朝野洋子氏による陶磁器上絵付け「盛り上げ装飾(凸盛り)」に関する研究(2019-2020年度)協力のご依頼がありました。また研究そのものに参加いたしました。初年度に、「凸盛り」に使用する基本的素材、基礎的技法、また焼成状態などを検証し、その結果を踏まえ、「凸盛り」活用による新規瀬戸製製品」の開発を行いました。

 

初年度の成果を踏まえ、その後の研究では、長谷川氏、朝野氏が「瀬戸らしさ」を感じさせる新しい凸盛り製品の試作を発表。また、「高度な技術による芸術性の高い美術工芸的な作品」というテーマの基、杉山ひとみが以下画像6の〈凸盛り竜〉を製作しました。

 

〈凸盛り竜〉【図6】

磁器製陶板 60×45㎝

デザイン・製作 杉山 ひとみ

 

「愛知産業科学技術総合センター 産業技術センター 瀬戸窯業試験場 令和2年度研究による試作」

 

前景の波には「二重盛り」を応用した技法を採用し、竜と火のモチーフには「ガラス盛り(コラレン)」を施しました。

 

「ガラス盛り(コラレン)」は光に反射してキラキラと輝きますが、画像ではお伝えできないことが残念です。

 

瀬戸焼に「凸盛り」を活用した新規瀬戸焼の開発研究に技術面で協力、参加しました。

 

2021年3月18日(木)、瀬戸窯業試験場さんが進める、上絵付け「凸盛り」に関する研究成果について、中日新聞社瀬戸市局 支局長 長坂幸枝様にご取材いただきました。

 

3月19日付「なごや東版」に、研究成果について大きく掲載いただき、多くの方に「凸盛り」やその伝承活動を知っていただく機会にもなりました。